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網膜疾患に関する詳細情報

網膜はカメラでいえばフィルムに相当する部分です。網膜の病気は様々ありますが、当専門外来では主に、遺伝性の網膜疾患と色覚異常を来す疾患について対応しております。網膜には様々な細胞が存在していてそれぞれが大切な働きをしています。この中で視細胞は光に反応して光刺激を電気信号に変換する働きを担当しています。視細胞には、杆体細胞と錐体細胞の2種類が存在し、杆体細胞は暗い所での物の見え方に関係した働きを担っています。ひとつの眼に1億2000万個の杆体細胞あり、網膜の中心部(黄斑部の中心窩)を除いた場所に多く分布しています。一方、錐体細胞は明るい所で細かいものを見分けたり(視力に関与したり)、色を識別する能力に優れています。網膜中心部の黄斑部に高密度に存在し、その数は600万個ほどといわれています。杆体細胞の機能が失われると、暗いところで物が見えにくくなったり(とり目、夜盲)、視野が狭くなったりするような症状を起こします。一方、錐体細胞が障害されると、中心部が見えづらくなったり、色覚異常を自覚したり、視力が低下します。このように網膜のどこの部分がどの程度障害されるかによって症状が異なり、網膜の病気が分類され、また病気によって進行の度合い、遺伝の種類が異なってきます。残念ながら現時点では治療が困難な病気が多い分野ですが、正しい診断を行い、病気の特徴、遺伝 (子供への影響に関すること)、視機能(視力・視野)の予後、治療に関する最先端の情報を提供し、患者さんに満足していただける外来を目標としております。

正しい診断を行うために

まずは患者さん一人一人と十分な問診を行ないます。眼底検査、蛍光眼底造影検査、走査レーザー検眼鏡検査、光干渉断層検査 (optical coherence tomography、OCT)、精密色覚検査、ゴールドマン視野検査、ハンフリー視野検査、分光感度測定検査、全視野刺激(Ganzfeld型)網膜電図検査 (electroretinography、ERG)、多局所網膜電図検査 (multifocal ERG)、カラー刺激網膜電図検査、眼球電図検査 (electro-oculography、EOG)、視覚誘発電位 (visual evoked potentials、VEP) 検査により、総合的に正確な臨床診断を行なっております。電気生理学に精通した専門医師が検査を担当いたします。

詳しい情報を共有するために

一つの病気に対して進行の仕方、遺伝形式は一つとは限りません。定期的に検査を行い、病態に応じた治療や生活指導を行っています。同時に、疾病に関する最新の知見を提供しています。当院では、病気の分子レベルでの解明や将来のオーダーメード治療に貢献することを目的として遺伝子検査 (遺伝子診断)を実施しております。我々は遺伝子レベルの解析結果の蓄積による病因の究明が治療法確立への糸口の一つであると考えています。実際、遺伝子診断されたLeber先天盲に対し、米国と英国で遺伝子治療が実施され、治療前に比べ治療後に視機能が改善していることが報告(The New England Journal of Medicine, 2008)されました。
当院の遺伝子解析研究は厚生労働省が推奨しているヒトゲノム倫理指針に沿って作成されており、分子遺伝学に精通した専門医により実施されます。また、遺伝性網膜疾患の病態だけでなく、遺伝学や遺伝子治療・再生医療学に精通した臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングも提供しております。

主な疾患の特徴

網膜色素変性症(retinitis pigmentosa)

視細胞及び網膜色素上皮が原発性・進行性に障害される遺伝性疾患です。最も多い自覚症状は夜盲です。さらに病気が進むと次第に視野が狭くなり、視力の低下や色覚異常も合併します。しかし、症状は個人差がみられ、最初に視力低下や色覚異常で発見される場合もあり、夜盲の自覚が乏しい方もいます。また、進行の早さには極めて個人差があることが特徴です。頻度は4,000人に一人と言われています。この疾患は遺伝子変異(遺伝子異常)が原因とされていますが、明らかに遺伝傾向が認められる患者さんは全体の50%以下で、残りは孤発例(親族に誰も同じ病気の方がいない)です。遺伝形式は常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝、X連鎖劣性遺伝など、こちらも様々です。前述しました通り個人差が大きい病気ですので、進行の度合いを知る為にも定期検査が必要です。また、この病気は難病(特定疾患)として国から認められており、定期検査には公費で医療費の一部が負担されます。また、視覚障害による身体障害者手帳申請できる患者さんには、身体障害者福祉法15条指定医の資格を持った専門医師が対応しています。身体障害者手帳が交付されれば、公費で遮光眼鏡や医療費の一部が負担されます。必要に応じて障害年金申請の書類作成も行っています。
網膜色素変性症に全身症状を伴うものは、症候性網膜色素変性症と呼ばれています。難聴を伴うUsher症候群、多指症、肥満、糖尿病、腎臓の奇形を伴うBardet-Biedl症候群、眼瞼下垂や眼球運動障害を合併するKearns-Sayre症候群、多発性視神経炎と小脳性失調を合併するRefsum症候群などがあります。

脳回状網脈絡膜萎縮(gyrate atrophy of the retina and choroid)

オルニチンアミノトランスフェラーゼという酵素の欠損または低下によって高オルニチン血症と高オルニチン尿症をきたし、網膜と脈絡膜に変性・萎縮をきたす病気です。通常小児期以降に矯正視力の低下、網膜の病変に一致した部位の視野障害、夜盲が進行します。早期に診断をつけ、アルギニン制限食が進行予防に奏効するという考えがあります。また、ビタミンB6の投与によって、進行が抑制される患者さんがいるので診断的な意義は高いと考えられます。常染色体劣性遺伝のまれな代謝性疾患です。これまでに、小児科で高オルニチン血症が指摘され眼底検査により本疾患が診断されたケースがあります。

コロイデレミア(choroideremia)

小児期から学童期の男児が夜盲で発症し、進行性に視野障害が生じます。網膜色素上皮と脈絡膜の進行性萎縮を来す病気で、進行すると著しい視野障害が起こります。中心視力は、比較的晩期まで保たれます。X連鎖劣性遺伝の病気です。罹患者は男性がほとんどですが、保因者である女性にも眼底異常や夜盲が出現するのが特徴です。遺伝カウンセリングが重要な病気です。

クリスタリン網膜症 (Bietti crystalline retinopathy)

網膜に微細な閃輝性・結晶状の沈着物が認められる疾患で、進行性の網脈絡膜萎縮を来す。30歳代以降に夜盲、視野障害などの症状で発症。進行すると視野欠損が拡大し中心部の視力も低下します。夜盲や変視症(ものがゆがんでみえる)を主訴に来院され、診断されるケースが大部分です。加齢と伴に閃輝性沈着物が目立たなくなります。常染色体劣性遺伝です。

Leber先天盲(レーベル先天盲、レーバー先天盲、先天黒内障) (Leber congenital amaurosis)

生後早期から強い視覚障害があります。色調の暗い眼底、網膜色素変性症類似の眼底、黄斑変性を伴う等様々な眼底所見を呈します。小児期での診断は、問診と眼底検査で行います。遺伝形式は常染色体劣性遺伝が大部分です。遺伝子変異が見つかった方に対し、2007年英国と米国で遺伝子治療が実施され、治療前に比べ治療後に視機能が改善していることが報告(The New England Journal of Medicine, 2008)さました。従って、遺伝子診断が重要な疾患です。全身合併症を伴うものは、シリオパチー(ciliopathy)と呼ばれています。

先天性停在性夜盲 (congenital stationary night blindness)

小児における矯正視力不良の原因疾患の一つです。生まれつきの夜盲がありますが、進行しないため自分で気がつくことはまれな疾患です。5歳~10歳位で視力低下によって気づかれることがありますが、眼底に異常は認めないため、全視野刺激網膜電図検査によってのみ診断可能となります。遺伝形式は、X連鎖劣性遺伝を示すことが多い(男子に多い)ですが、常染色体劣性遺伝を示すこともあり女性にも発症します。中高年で幼少時から斜視や弱視と診断されていた方で、本疾患が診断されたケースを経験しています。

小口病 (Oguchi desease)

先天夜盲の一疾患で、剥げかかった金箔様と表現される特有の眼底所見で知られています。症状は生まれつきの夜盲のみで、進行しないとされており、視力、視野、色覚は通常正常といわれています。遺伝形式は常染色体劣性遺伝をとります。停止性と考えられていますが、50代以降で視野障害(輪状暗点)を来す場合もみられます。常染色体劣性遺伝の疾患です。

白点状眼底 (眼底白点症) (fundus albipunctatus)

先天夜盲の一疾患です。特徴的な眼底所見を呈し、小さな白点が無数に出現します。症状は夜盲というよりも暗いところに目が慣れるまで時間がかかること(暗順応遅延)が特徴です。暗順応は、約2-3時間で正常化することが知られています。従来、進行はしないと考えられていましたが、黄斑部の病気(黄斑変性、黄斑ジストロフィ、錐体ジストロフィ)を合併する例が少なからずみられ、中心部が見えづらくなることがあります。眼底に小白点が散在してみられ、健診などで偶然発見されることもあります。夜盲の自覚がない方もいます。ほとんどが常染色体劣性遺伝です。

白点状網膜症 (白点状網膜炎) (retinitis punctata albescens)

白点状眼底と同じく眼底に小白点が散在して認められます。白点状眼底とは異なり、成人発症の病気です。加齢と伴に白点は目立たなくなっていきます。ただし、症状としては進行性の夜盲、視野狭窄、視力障害が生じることもあります。常染色体劣性遺伝の疾患です。日本では、まれな病気です。

色素性傍静脈網脈絡膜萎縮 (pigmented paravenous retinochoroidal atrophy)

ほとんどの方で視機能障害は比較的軽度で、夜盲は自覚せず視野も保たれるといわれています。網膜静脈の走行に一致して、その周囲にのみ萎縮・変性、沈着物が認められるのが特徴です。孤発例がほとんどですが、家族性の発症例も報告されています。慈恵医大では、孤発例と常染色体優性遺伝例を経験しています。

錐体ジストロフィ (錐体杆体ジストロフィ) (cone dystrophy)

進行性に錐体機能が選択的に障害をきたすいくつかの疾患の総称です。ほとんどの方が、視力低下と眩しさを訴えています。変性疾患の中では、網膜色素変性症の次に頻度が高いと考えられています。原因となる遺伝子異常が多岐にわたるため、遺伝形式や症状は様々です。共通した特徴は、眼底に黄斑変性の所見、中心部が見えづらい、眩しい、色が変わって見えるなどの症状がみられることです。周辺部の視野は比較的保たれる傾向があります。進行の程度も個人差があり様々です。全視野刺激網膜電図で杆体反応に比べ錐体反応が有意に減弱していることが特徴です。光干渉断層像で網膜が薄くなっている所見が検出されます。進行すると錐体だけでなく杆体の機能も低下します。

Stargardt病(スターガルト病、スタルガルト病、スターガート病、黄色斑眼底) (Stargardt disease)

通常学童期から10歳代に矯正視力が低下することにより発見されることが多く、中心部が見えづらいと訴えることもあります。中には、30代になっても良好な視力を維持している患者さんがいます。眼底所見は多彩ですが病気が進むにつれ黄斑部が萎縮してきて、網膜の広い範囲に障害が起き、視力が低下します。網膜電図と光干渉断層像検査を行います。フルオレセイン蛍光眼底造影検査が診断の決め手になります。常染色体劣性遺伝の疾患です。

卵黄状黄斑ジストロフィ(卵黄様黄斑ジストロフィ, Best病, ベスト病)(Best vitelliform macular dystrophy)

初期の眼底所見が特徴的で黄斑部の中心部に目玉焼きの黄身に似た病変が現れることからこの病名がつけられています。この時期は、視力低下がないため、偶然発見されることがあります。病期により症状は様々で、進行すると視力障害が生じることもあります。黄斑部病変が片眼のみにみられる場合もあります。確定診断のためには眼球電図検査が必要です。視機能予後は、他の黄斑ジストロフィと比べると良好です。常染色体優性遺伝ですが、同じ家族内で遺伝子異常を有していても全く症状を訴えない方が多いのも特徴といえます。この場合、症状がなくても眼球電図検査を受けることによって診断が可能です。

家族性ドルーゼン (常染色体優性ドルーゼン、Malattia Leventinese, Doyne honeycomb網膜ジストロフィ)

20~30歳代で眼底にドルーゼンと言われる白点が認められ、それが徐々に融合したり増加していきます。加えて、黄斑部に網膜色素上皮の変化(色素異常のむらや色素沈着)がみられ、まれに、ドルーゼンから脈絡膜新生血管が生じ、著しい視力障害を生じることがあります。近年加齢黄斑変性症に近い病態であることが判明し、治療法がないとされているこの疾患に対し、当院では倫理委員会の承認のもと、光線力学的療法 (PDT)やベバシズマブ(アバスチン®, Avastin®)硝子体注入療法を行っております。常染色体優性遺伝を示す稀な疾患です。

若年網膜分離症 (先天網膜分離症) (X-linked juvenile retinoschisis)

網膜が分離する黄斑変性を伴う疾患です。学童期男児の視力障害の原因として比較的頻度の高い疾患です。眼底所見としては、車軸状の黄斑変性はほぼ必発で、全体の約50%に網膜周辺部の網膜分離症がみられます。硝子体出血、牽引性網膜剥離、増殖性硝子体網膜症を合併しなければ、視機能予後は比較的良好です。進行は緩やかですが、視野異常、矯正視力の低下を認めます。また硝子体の牽引による硝子体出血を合併することもあります。X連鎖劣性遺伝の疾患です。他の疾患と鑑別が困難なことがあり、確定診断の目的で遺伝子診断を実施しています。

中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィ (中心性輪紋状脈絡膜萎縮) (central areolar choroidal dystrophy)

黄斑部の網膜色素上皮と脈絡毛細管板の進行性萎縮病変を呈する疾患です。中年期まで視力低下はみられません。中年期以降、矯正視力と中心部が見えづらいという症状から始まり、進行すると色が変わって見えたりまぶしく感じたりします。しかし、周辺部の視野は比較的障害を受けることは少ないようです。ゆっくりとは進行しますが、中心部の広範囲に萎縮が及ぶ場合があります。萎縮型加齢黄斑変性との鑑別が困難なことがあります。常染色体優性遺伝するものがあります。

Occult macular dystrophy (オカルト黄斑ジストロフィ)

黄斑部を含めた眼底が正常であるにもかかわらず両眼の視力が徐々に低下していく病気です。発症年齢はさまざまです。進行性の病気ですが、その進行速度には個人差がありますが、進行は緩やかです。一般診察では診断が不可能で、多局所網膜電図でのみ異常が検出される為、限られた施設でのみ診断が可能である疾患です。光干渉断層像で中心部網膜が薄くなることが補助診断となります。周辺視野は晩期まで保たれます。常染色体優性遺伝をとるもので、RP1L1という遺伝子に原因があることが判明しました。常染色体劣性遺伝形式を呈するものも存在します。

脊髄小脳変性症7型 (spinocerebellar ataxia Type 7)

運動失調を主な症状とする神経疾患の総称を脊髄小脳変性症といい、小脳、脳幹、脊髄にかけての神経細胞が徐々に破壊されていく疾患です。遺伝子変異により様々なタイプが報告されていますが、7型は唯一網膜変性が起こるタイプです。中心部が見えづらい、まぶしいという症状のほか、ふらつく、などの全身症状を合併します。常染色体優性遺伝で遺伝子解析によりある程度病気の進行具合が推測される場合があります。黄斑ジストロフィや錐体ジストロフィを合併します。

家族性滲出性硝子体網膜症 (familial exudative vitreoretinopathy, FEVR)

若年性の網膜剥離の原因となる疾患の一つで、常染色体優性遺伝が大部分です。特に耳側網膜の網膜血管走行の異常を認め、周辺網膜の無血管領域・滲出性病変、硝子体出血、鎌状網膜剥離、視神経乳頭から硝子体腔に向かう硝子体索などがみられます。斜視や片眼の弱視が疑われ、眼底検査で見つかることもあります。早期に、診断をつけることにより合併症の予防手段を考えることが出来ます。成人期を過ぎると進行はしないか極めて緩やかな方が多いと考えられています。

Enhanced S-cone syndrome (ESCS, S錐体増強症候群)

1990年に発見された比較的新しい疾患です。眼底所見は、網膜色素変性症に類似するが網膜血管の狭小化はみられません。網膜電図で最大応答と錐体応答の波形が類似することがこの病気の特徴です。確定診断には、カラー刺激網膜電図検査が必須です。赤色(もしくは長波長色)刺激では振幅は著しく低下し、青色(もしくは短波長色)刺激に対して振幅が増大する所見が特徴です。常染色体劣性遺伝を示します。

白子症 (albinism)

メラニン色素形成過程の異常の為、皮膚、毛髪、眼のメラニン色素が減少あるいは欠如する先天性の色素脱失症です。発症する部位より眼皮膚白皮症、眼白子症と分けられます。眼の症状として、まぶしく感じる、眼がゆれる(眼振)、強い屈折異常、斜視、弱視などがあります。虹彩を通して水晶体が観察されたり、網膜色素上皮の色素が欠損するため、脈絡膜大血管や強膜が透けてみえることが特徴です。遺伝形式は眼皮膚白皮症 (oculocutaneous albinism) が常染色体劣性、眼白子症 (ocular albinism) はX 連鎖劣性遺伝が多いとされています。

網膜色素線条 (angioid streaks, AS)

眼、皮膚、胃腸、心血管系などの全身の弾性線維の遺伝的形成不全が病因です。高頻度に皮膚の弾力線維仮性黄色腫 (PXE) を合併しています。ブルッフ膜と呼ばれる網膜後方に位置する線維が弱くなり、視神経乳頭の辺縁からひび割れのような(網膜血管に似た)線がみられたり、耳側網膜に点状所見(梨子地眼底)がみられます。黄斑部に脈絡膜新生血管を生じる頻度が比較的高く、視力が低下したり中心部がゆがんだり見えづらくなったりすることがあります。当院では倫理委員会の承認のもと、ベバシズマブ(アバスチン®、 Avastin®)硝子体注入療法を行っており良好な成績が得られております。また、高頻度に皮膚の弾力線維仮性黄色腫(PXE)を合併しているため、皮膚科との協力体制で診断に努めています。

常染色体優性視神経萎縮 (dominant optic atrophy, DOA, ADOA)

矯正視力の低下と視神経萎縮をきたす遺伝性の疾患です。矯正視力低下のほか色覚異常、中心部の視野異常を来します。視力予後は比較的良好ですが、家系によっては高度の視力障害が生じることがあります。視力障害の自覚が乏しいことや眩しさの自覚がないことが、網膜疾患と異なる点です。進行は、極めて緩やかな場合が多いと考えられています。常染色体優性遺伝です。診断が困難なことがあり、特殊な視野検査、遺伝子診断を実施しています。

Acute zonal occult outer retinopathy (AZOOR, 急性帯状潜在性網膜外層症)

若年者に発症することが多く、突然の光視症(光が走って見えるなど)を伴った視野欠損を訴えます。網膜の外層の一部の疾患と考えられており眼底にはほとんど変化がないため、眼底検査や蛍光眼底造影検査では診断が出来ません。そのためERGや多局所網膜電図検査が診断のために有用となります。病変が中心部に出現した場合、視力低下を来します。

癌関連網膜症 (悪性腫瘍随伴網膜症) (cancer associated retinopathy, CAR)

悪性腫瘍が産生する蛋白質に対する自己抗体が視細胞を攻撃することが原因となる網膜変性疾患です。高齢者において急激に進む視力・視野障害、まぶしさで自覚され発見されることが多く、症状が進むと夜盲、視野異常も自覚されます。診断には、網膜電図検査だけでなく自己抗体の検出が不可欠です。肺小細胞癌、乳癌、子宮癌に随伴するものが多く早期の全身治療が必要となります。